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  伊藤康英
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合唱オペラ「ねこはしる」初演について   伊藤康英
   
 2003年10月4日、第6回津山国際音楽祭の一環として、津山市(岡山県)のベルフォーレ津山にて行われました新作「ねこはしる」(4人の独唱、合唱、朗読のための、歌って、語られ、演じられるオペラ)は、おかげさまで成功裡に初演されました。

 この作品は、工藤直子さんの著書「ねこはしる」をほとんどそのままテキストに用いたオペラです。話は、黒猫のランと、小さな池に住む小さな魚とが出会い、友達となり、そうして意外な結末を迎える「いのち」の物語です。 ソプラノ、メゾ・ソプラノ、テノール、バスの大人の独唱に、50名ほどの児童合唱、朗読、ピアノ、電子オルガン、打楽器という編成、児童合唱の中から高校生の二人がランと魚役で参加しています。全一幕、75分を少々こえる作品です。

 さて、10月4日の初演は、約600席のホールはほぼ満席。客席には、子供たちも多く見られましたが、大人も子供も、80分近くに及ぶステージを、集中して観てくださり、また大変に喜んでいただけたこと、嬉しく思っています。

 私が嬉しかったことはほかにもたくさんあるのですが、1999年の音楽祭で「キュウリに求婚」を初演してくれた子供たちが、ずっと合唱を続け、また今回のステージに立ってくれたのは何よりの喜びでした。このような活動の中で、音楽好きの子供たちが育っていく。そういう意味で、この音楽祭の中でも価値あるプログラムだと思います。正直言って今回の作品は、子供たちが上演するには、極めて難易度の高いものでした。テーマも重いし、作品も長い。しかし、子供だからといってお手軽に楽しめる容易な作品を与えていればいいとは考えません。

 ところで、私自身考えるところがあり、プログラムにはストーリーを一切載せていません。ただ、原作の冒頭にある詩だけは配布しました。

いのちが もし
光る束のようにみえるなら それは
ほたるのように 
光る息をしていると思う
出会いと別れを
すったりはいたりしていると思う

そしてそれは
むこうのほうからきて あちらのほうへと
ひかりひかり通りすぎるのではないかと思う
出会いと別れをくりかえしながら
なにかに近づいていくように

―あれは何なのだろう あの むこうに
  あらわれてくるものは 何なのだろう

と思いながら
すこしずつすこしずつ近づいていくように

 
 今回も、演出の池山奈津子さんに大変お世話になりました。池山さんには、これまで、作陽のオペラのクラスでいろいろとお世話になったのをきっかけとして、私の舞台作品のほとんどすべてを手がけていただいています。「キュウリに求婚」(1999年、初演)、「ミスター・シンデレラ」(2001年、初演、演出助手)、物語「冬の旅」(2002年、初演)そうして今回の「ねこはしる」です。稲田道則さんの照明で舞台作品としての効果を高めていただきました。合唱指導の先生方、そのほか、舞台にかかわってくれたすべての方々に感謝、感謝です。
 そしてなんといっても、この無謀とも言える大作を、二つ返事で引き受けてくださった揃敏幸さんのお陰でこの作品を創り出すことができました。

 なおこの作品は、ランと魚は高校生が初演しましたが、これは大人の歌唱にも十分耐える内容になっています。とりわけ、後半に用意された8分にもおよぶランと魚の二重唱は、私としては、「薔薇の騎士」(R.シュトラウス)の第2幕のゾフィーとオクタヴィアンの二重唱に勝るとも劣らない、と思っています。(・・・とは、ちと言い過ぎかもしれぬが、実のところそう思っている。)それから合唱も、児童合唱に限ったものでもなく、大人の女声合唱でも効果が大きいと思います。ピアノとエレクトーンと打楽器、というアンサンブルも、オーケストラを彷彿とさせるものがあるので、いずれはオーケストラ版も作りたい、と思っているところです。
初演のプログラムの、私の解説を載せておきます。

 出会いと別れ                 
(合唱オペラ『ねこはしる』解説とあらすじに代えて)           伊藤康英

 出会い、とは不思議なものだなあと、つくづく感じる。
 昨年、たまたま朝日新聞社のある記者と出会い、その縁で工藤直子さんの作品に触れるようになり、『ねこはしる』に出会った。ちょうどその頃、永年、作陽のオペラのクラスで一緒だった揃さんからは、児童合唱のミュージカルの依頼を受けていた。
 津山の児童合唱の子どもたちは、4年前に初演した『キュウリに求婚』のときに出会っている。今回、ずいぶんと大きくなった彼女らとこうしてまた一緒に舞台が作れるのも何かの縁だろう。
 さて、このお話の主人公である子猫のランも、不思議な縁で魚と出会い、友だちとなった。そうしてランと魚は、少しずつ成長していく。
これを演じてくれる子どもたちも、これまでの練習でずいぶんと成長してきたことだろう。それが何よりもうれしい。
 それでは、この本の冒頭に掲げられた詩を読みながら、一緒に開幕を待つとしましょう。